まだ少し待っててね

20歳の次男が2017年4月に自死しました

くちなし

2年前の7月まで我が家に居た犬は、散歩が大好きで、

無駄吠えを全くしない、おとなしい子だった



長男が産まれた頃、前夫が、私の祖母(母方)に借金をした

私が前夫と離婚した時、借金はまだ40万円残っていた

「前夫の借金は私が返すから」と、祖母に言うと

「1人で4人も育てて大変なんだから、少し余裕が出来て、

貯まってからでいいからね」

と、言われた


平成17年5月、子供達を連れて祖母の所に遊びに行った

「夏のボーナスで全額貯まるから、お盆には揃えて返せるからね、長い間ありがとう」

その2ヶ月後、祖母は亡くなった


祖母の通夜の後、母の兄弟が遺産を分ける話をしていた

「前夫が借りたお金、お盆に返すって約束してたから…」

と、私は現金の入っている封筒を出した

「まだ子供達にお金が掛かるんだから、これは貰っておきなさい」

叔父(母の弟)と叔母(母の妹)が言った


うちには既に飼猫が居たが、皆で話し合い、そのお金で犬を飼うことにした

平成17年8月、家族が増えた


犬の散歩の相手は、私と次男が一番多かった

私も次男も、桜が綺麗な春から初夏にかけての公園が大好きだった


毎日、この遊歩道を歩いた


6月くらいには、くちなしの甘い香りがする

「ぼくね、くちなしの香りが大好きなんだ」

小学生だった次男が言った

「次男くんも好きなの?ままも大好きなんだよー」

私は、なんか嬉しくなった


遊歩道が、甘くなる


散歩中に、知らないおばさんが話し掛けてきたことがあった

「うちの子が、雀の雛を口に入れちゃったんです

どうしましょう?」

大きなゴールデンレトリバーの口を次男が開き、雛を取り出すと、おばさんは

「雛、なんとかして下さい」

と言って、去ってしまった

次男は、涎でびっしょりの雛を両手で持っていた

「どうしよう…」

「雛って巣から落ちたら、もう駄目なんじゃないの?

木の下に置いておくしかないかもね?」


この子は枝が好きだった

見つけると、カミカミ

枝を咥えながら散歩することもあったから、

人に笑われて恥ずかしかった


次男が中学にあがり、夕方、私が1人で犬を散歩していた時に、

遠くで男の子が、お年寄りを揺すっているのが見えた

「大丈夫ですか?誰か、助けて下さーい」

近づくと、それは次男だった

公園の遊歩道の横が通学路だった次男が、

「何気に公園を覗いたら、いきなり、おじいさんが倒れたから驚いて…」と言っていた


私は「救急車を呼びましょうか?」と聞いたが、

「すぐにおさまるから大丈夫です」と言われたので、

とりあえず、抱き抱えてベンチに座らせ、

公園の管理事務所のおじさんに、様子を見て欲しいと頼んだ


その後、次男と一緒に帰った

「母さん、やっぱり凄いね

おじいさんを抱えて、ベンチに座らせられるんだもんね」

「仕事で、やってるからね」

その当時、私は特養で働いていた



ここに引っ越してきてから、家の花壇に、くちなしを植えた

最近は葉が落ち、枝だけになっている

来年の6月に花が咲き、甘い香りを出すと、

私はまた、次男と犬の散歩をしたことを思い出す