まだ少し待っててね

20歳の次男が2017年4月に自死しました

高校の仲間

中学校の吹奏楽部のお友達が帰ると、

入れ替りで高校の担任の先生とお友達が来た


次男の高校入学から卒業まで、ずっと担任だった先生は、

部活の顧問でもあって、朝までモンハンをする仲だった


仲の良かった友達と一緒に、お線香をあげながら

「嘘であって欲しい」と言っていた


先生は「学生証で撮った写真ですが…」と、

大きく引き伸ばし額に入れた物を3つと、

先生の家に遊びに行く度に、次男が見ていたという富士山の登頂旗を

「だいぶ昔の物なので汚れていますが、次男くんにあげて下さい」とくれた


本当は去年、先生と富士山に登ると言っていた

でも先生は去年から、新しい学校に赴任となり、とても忙しそうだった


それで「来年の夏休みにしよう」と延期になったのだが、

先生は「延期しなければよかった」と後悔していた


次男の友達は「今年みんなで登りますか、富士山」と言い、他の友達と先生も頷いた


いつもこのメンバーで、秋葉原や御徒町に行っていた

次男は、先生に教えられたお店を巡り、買物するのが好きで、

美味しいラーメン屋でご馳走して貰う事が多かった



高校では、“燃費の良い車を作る"という部活に入っていた


1年に1回、“1ℓの燃料で何km走れるか“を競う大会があり、

体重の軽い次男は、毎年ドライバーをしていた


大会前は学校に泊まり込みで、マシンを作る次男は楽しそうだった

部長になると、インタビューを受けたり新聞にも載った


次男の携帯電話に後輩とのやりとりがあった

「部活の大会前に学校に来て下さい」というLINEに、

次男は行けないと答えていた


大学進学希望を急遽、就職に変え、進路担当の先生に迷惑を掛けたうえに、退職したからだ


去年の10月の時点では、免許を取るつもりでいた様だ


私は、学校から斡旋された会社を退職すれば、学校には連絡が行くだろうなと思っていた


大会の成績は、かなり良かったみたいで、

写真が添付されていた


このやりとりを見ると、うちで末っ子の次男は、

やっぱり後輩の前では先輩なんだな…と不思議な感じがした


この後輩の子とのLINEは、これが最後だった

イケメン

子供の頃からずっと大好きなアイドルグループがいる長女は、

このアイドル事務所に、小学生だった次男の写真を送ろうとした事があった

「顔がかっこいいんだから入れるって」


長男が「俺じゃだめなの?」と言うと、

長女は「お前じゃだめだよ」と笑った

私は「だめだよ、芸能人なんて」と、写真を送る事を阻止した


長男は、よく「俺が、このスペックだったらなー」と

次男の容姿について言っていた


次女は、次男の顔がお気に入りだった

携帯電話で盗撮した写真ばかり集めた“弟フォルダ"を作っていた


幼稚園からピアノを習っていた次女は、

学校の合唱コンクールで、何度もピアノを弾いていた

いつも次男は隣でピアノを聴き「上手だなあ」と、誉めていた


小学生の時「僕も音楽をやりたい」と、

お年玉で初心者用のバイオリンを買ってきたが、

とても酷い音で笑ってしまった


次女は中学に入学すると、吹奏楽部に入部した

年子の次男は、姉を追いかけ吹部に入った


吹部は女の子が多く、同級の部員は次男以外、

全員女の子だった

それでも次男は、部員の女の子たちと仲よく、

沢山のプリクラや写真を撮っていた


中学校を卒業した後も、あちこち出掛けたり、ご飯に行ったり、

頻繁に集まっていたそうだ


リビングに入りきれないほどの吹部の女の子たちが、

お骨になった次男に会いに来てくれた

その時に「去年の夏から連絡が途絶えてしまって…」と聞いた

次男が携帯電話を壊してしまって、

前のLINEにログイン出来なくなったからだな…と思った


女の子たちは「居なくなるなんて、もう会えないなんて信じられない」

「優しかったし、中学の頃より身長もぐんと伸びて、かっこよかったよね」

などと思い出話をしたり悲しんでくれた

そして次男の為に、1通ずつ手紙を書いてきてくれた


一緒に来れなかった後輩の子がくれたLINEには、涙が出た


うちの中では末っ子だから、

面倒を見て貰うばかりだった次男が、

外では、きちんと先輩してたんだ…



長男は「俺が死んだって、こんなに沢山の女の子たち、

会いに来てくんねーよ、ハーレムじゃんか」と笑った


2年前に住んでいた家の時の家族LINEで、

次女と隣人の会話に、

長男が「きっと兄ですよって答えて」と返した事にも、

みんなで笑った



でも次男は、イケメンと呼ばれる事なんて、

どうでもいい様だった


幼稚園や小学生の頃は「〇〇ちゃんが好き」とか言っていたが、

高校生になると「俺は結婚しないと思う」なんて言いだし、

1度も彼女を作る事もないまま、逝ってしまった

きっかけ

2日ぶりに帰宅すると、お腹をすかせた猫たちが

私達の足元にまとわりつく


ご飯とお水で満足した猫たちは、食卓に置いた次男のお骨の匂いを嗅いだ


「これは次男くんなんだよ」

「こんなになっちゃって…ねぇ」猫に話しかけた


仏壇は、小さな物を通販で頼んだ

ホームセンターで、お線香と仏壇を置く台を、

花屋で向日葵を買った



次男は何故か、うちの裏玄関が好きで、

いつも裏口から出入りをした

必ず階段を登りながら「ただいま~」と挨拶をして、

リビングに入り、猫たちを撫でる

1週間前までの毎日は、そうだった


お線香をあげながら

「次男くんは本当に、お馬鹿だねぇ」

「今は後悔してるよね?」と話しかけた



その日の夕方、刑事がうちに来て、次男の机の周りやパソコンを調べていた

刑事は、押入れの隅にバルーンタイムの空箱を見つけ、

「4月10日に自分のパソコンからAmazonで購入していますね」と言った


次男は4月7日に寝坊して仕事を休み、それ以降は出勤せずに、

自殺サイトを検索していたようだ


きっかけは、ただの“寝坊"だったんだ

そんな事で“もう後がない"と考えて、

3日後にヘリウムを買ったのか…



10日の何時にAmazonで注文したのかは聞いてないが、

この日は私とサトーココノカドーに出掛けている


「1週間だけココノカドーやるんだって、行ってみない?」

次男は「行こっかな」と返事をした


ファミレスでランチをしてから向かった

「うわ、外まで変えたんだね」

次男は驚いて笑った


もし出掛ける前にヘリウムを注文したのなら、

どんな気持ちで、私と一緒に歩いたのだろう


注文したのが、出掛けた後だとしたら、

何を考えながらクリックしたのだろう…


「顔を入れて」と言っても「え、やだよー」と入れてくれなかった


「安いから新しいジーンズ買おうかな」

次男は、みさえ・ザ・バーゲンで安かったEDWINのジーンズを試着してから、

レジに持っていった


「父の日のプレゼントに」と、私の彼氏に購入したネクタイは、6月に家に届いた

次男は、直接ネクタイを渡せず、

ジーンズは値札を付けたままで、1度も履いていなかった



刑事は、高校のノートや手帳の筆跡と、

「しばらく出かけてくる」という書き置きの筆跡を比べ、私に見せた


「この書き置きは、本人の筆跡に間違いありませんね

これらの状況から、事件に巻き込まれたとか、

教唆された訳ではなく、

自殺ということで調査を終わらせて頂きます」


私達は、刑事に深くお辞儀をして見送った