まだ少し待っててね

20歳の次男が2017年4月に自死しました

1泊目の夜

朝からすごく長い1日だった

警察署から宿に戻ると、どっと疲れが出た


なぜこんな事になってしまったのだろう…


次男が、去年の夏に家出キャンプをした時から、

洗濯物をベランダで干していると、

ふと次男を思うという事が数回あった


「温かい湯船に浸かって、綺麗な下着を身につけて、

自分のベッドで眠れるっていうのは、幸せな事だと感じてるよね?」


どうしてなのかわからない

でも、なんとなく次男の事が心配になる事があった


「遠くに行ったりしないよね?」


子供達の中でも、末っ子の次男を特に甘やかして育てた


私は心配性で、特に次男の事となると、

危なっかしくて見てられないという事が多かった


「心配ばかりすると呪いになりますよ」

「心配事を口にすれば、母の念が呪いに変わって、

引き寄せるからだめなんです」


いつもそう言っていた職場の人に、

私がいつも心配したから、次男は逝ってしまったのかを、電話で聞いてみた


「それは違います」


何が違うのかわからない

ずっと考えていた


彼氏と“次男が逝ってしまった理由"を話していても、

答えは出ずに、一睡もしないまま朝になった




幼稚園から中学校まで仲良しだったお友達と

お気に入りだったレゴのリュック


お線香をあげながら

「次男くんが、居ないなんて信じられない」とお友達は言っていた

私だって夢ならいいのにと、毎日思っている



緑のパーカーを着た真ん中が次男

小学校の修学旅行は日光で、

私へのお土産は孫の手だった

今も大切に使っている


小学校のお友達には、次男の今回の事を、

うちの家族からは教えていない

山の宿

「遺体は明日か明後日にお返しする事になるので、

今日は、こちらに泊まって行って下さい

もし宿の希望が無ければ、こちらで探して手配しましょうか?」

と刑事に言われ、おまかせする事にした


「葬儀は、こちらでされますか?ご自宅の方でされますか?」


なんかの間違いであって欲しいと思って来たので、

なんの用意もせずに飛び出してきた


猫達のご飯も水も少ししかあげてきてないし…

お腹すかせてるかな


ぼーっと、そんな事を考えていた


彼氏は、東北のお父さんに葬儀の事を相談して

「そこで火葬をして、お骨で連れ帰った方がいい」と教えて貰った


彼氏に「どうする?」聞かれて

私は「うん」と答えた


「連休中だから医者が休診中で…

時間が掛かってしまい、すみません

遠方から来られているし、

なんとか早めに死体検案書を書いてくれる診療所を探しているのですが…」


刑事は数人で探してくれていた

暫く待つと、

「書いてくれる先生が見つかったので、

明日の朝9時頃、診療所に取りに行って下さい

検案書が無いと死亡届が出せず、葬儀が出来ないのです

それを取りに行ったら、またこちらに来て下さい」と、言われ警察署を出た


宿は近かった

素泊り1人4千円を5人、2泊分の宿泊費を払うと、

柏餅を5つくれた


私は餡子が好きではないが、

次男は、どら焼きや柏餅が好物だった


宿には50kg超えのゴールデンレトリーバーが居て、

次男が喜びそうだな…と思ったら、また涙が出てきた


うちの方では、もう暑い位の気温だったが、

ここは寒く、まだ石油ストーブを使っていた


私は、父親と親戚の叔母さんに連絡を入れ、

彼氏は、葬儀屋を探して決めてくれていた





小学生だったこの頃は、私と毎朝、犬の散歩をしていた


数ヶ月前にペットショップで秋田犬を見てから、何回も欲しいと言っていた


あの時に犬を飼っていたら、

次男は逝かなかったんだろうか…




スノーボードによく行っていた私が、夏に滑りたくなった時の為に、

ブレイブボードを購入すると、次男が気に入り毎日乗っていた


よく2人で一緒に滑って遊んだ

バルーンタイム

横になっている次男を家族で囲む


私と長女と次女は、声を出して泣いた

長男と彼氏は、黙ってじっと見ていた


こんなに心配させて何やってるのと、

ひっぱたいてやりたかった


次男は裸にされて、肩の少し下から布を被せられていた


「事件に巻き込まれたりしてないかとか、色々と調べる為に、

服を脱がさせて貰いました」

と刑事が言った


霊安室の外は駐車場になっていて、

そこに色々な次男の荷物が並べられていた


「このリュックにバルーンタイムが、この様に入っています

このリュックに見覚えは?」


バルーンタイムは、かなり大きい

パーティーグッズのヘリウム缶を想像していたので、大きさに驚いた


「リュックは4月半ばに私の実家で貰った物です」


長女が「そういえばこないだ、このリュック蹴りました

次男の机の近くの床に置いてあって、

足で蹴ってしまったら転がって…

大きな割には随分軽いなと思いましたが、

中身までは確認してないです」と言った


「いつですか?」

「わかりませんが最近です」


「どこで買ったかわかりますか?」


わかる訳なんかない

こんな大きなヘリウムの存在も知らなかったし、

ドリエルなんて薬の名前も聞いた事なかった


うちは全員、寝るのが趣味と言っていいほどよく眠る

私には眠れなくて困る悩みなんて無かったのだから…





次男は、遊具で遊んだり、虫を捕まえたりできる公園が好きだった


うちの家族は虫とかが苦手なのに、次男だけは大丈夫で、

蝉やトンボやカブトムシなどを触ることが出来た


何故か家のカーテンレールに蝙蝠がぶら下がっていた時にも、次男に外に出して貰った事があった


さすがにその時は、少し怖がっていた





かくれんぼや、木登りも好きだった

土団子は、まん丸でとても固く作るのが上手で、

未だに割れず、きちんと取ってある