まだ少し待っててね

20歳の次男が2017年4月に自死しました

書き置き

私と彼氏のGWの休みは5月3日から始まった

次男が帰らなくなって既に5日が経っていた


あと2日帰らなかったら、警察に届けを出そう…


1週間待とう…そう思ったのは、

去年の夏に捜索願を出した時は、次の日に帰ってきたからだ


いつも私は職場の人に「心配ばかりすると呪いになりますよ」と言われる


なるべく考えないようにしよう…

そう思うようにした


彼氏が、「横浜に行った事が無い」と言い、

中華街に出掛ける事になった


家を出る間際、普段はセールス位しか鳴らない家の電話が鳴った

ナンバーディスプレイの下4桁は0110だった


「〇〇警察署ですが、次男くんと思われる男性が遺体となって発見されました」


「今朝の7時頃、猟銃会の方から、

何日か前からテントが張ってあるので調べて欲しいと

連絡を受けて確認しました」


「遺体の傍にはヘリウムガスがありました

家にヘリウムガスがあった事を知っていましたか?」


寝室に居た彼氏が、私が電話で話している事に気付き、

「誰?」と聞いてくる


「警察…次男くんの遺体があったって…」


彼氏は驚いて、3人の子供達を呼びに行く


仕事や遊びで忙しい子供達が、

家に全員が居るなんて事は滅多にない

でも、この時は何故か揃っていた


「遺体の確認をしに来て欲しいのですが、

こちらが聞いた物を探して貰いたいので、

誰か1人は留守番して下さい」


「部屋に書き置きが無いですか?あったらそれと、

次男くんの写真や本人確認できる物も持ってきて下さい」


長男がレシートの裏の走り書きを見つけた


「しばらく出掛けてくる」

一言だけだった






今年のバレンタインデーに、

長女が自分の彼氏にあげるケーキを、

次男に作らせ、長女は動画を撮っていた


長女も次女も、ケーキやクッキーを

いつも弟に作らせ、彼氏にあげていた


次男が作ってくれるお菓子は

クレープでもケーキでも本当に美味しかった

言霊恐怖症

私は数年前、前職の会社で嘘の口実で休みを貰った事がある


「母が肺炎になった為、〇日はお休み下さい」

「彼氏の両親が東北から出てくる為、〇日はお休み下さい」


母は2週間後に本当に肺炎になり、

彼氏の両親も、私が休みを貰った1週間後、急に来る事になり驚いた


今迄も不思議と、その様な事が何回もある


何気なく「〇〇だったりして」などと口にすれば、本当になるから怖い



“30漕いだら譲る"

これが私が通っていた幼稚園のブランコルールだった


並んで順番を待っていると、

私の前の男の子は、いつまで経っても降りようとしない


頭に来た私は、その子に

「先生が教室に戻りなさいって言ってるよ」と嘘をついた


男の子が降りたブランコに乗り、私が数える間に、

その子は園庭のみんなに「教室に戻って」と言い回っていた


園庭には誰も居なくなり、私は青ざめた

誰も居なくなるなんて…


先生は「あれ?何故みんな教室にいるの?

これから集合かける所だったのに…

でもまあ、ちょうど良かったわ

紙芝居始めるわよ」と言った


私は、ほっとして、

でも犯人探しされたら怒られるかもしれないと

ドキドキしていた


口に出した事は本当になっていくんだ…と、

初めて思った出来事だった



次男のLINEの表紙を見た時に、

これを口に出して家族の誰かに伝えたら、絶対にだめな気がした


「さいなら」??


次男は帰らないつもり…?そんな訳ない

見なかった事にしようと思った

4月29日

次男は朝になっても帰っていない

連絡もなかった


食卓の上に置いておいた石焼芋は、

しなしなになっていた


午前中だけ仕事だった私は、

帰宅してから次男にLINEを入れてみた


「また山?」



数日前に山に行きたいと言っていた

「あの山は本当にすごいんだよ」


その山には名前が無いらしい

小学生の時、ボーイスカウトで登った山で、一目惚れしたそうだ

そこで頻繁にキャンプしていた





去年の夏の家出キャンプ後は、

私の彼氏に注意されたからか、

LINEで写真を送って来るようになった



こんな大きなリュックを背負って



食べ物もテントも持っていく




「また山?」


LINEを送った後、

何故だか、すぐに電話がしたくなった

鳴らしてみたが出ない…


またLINEを開いてみる

既読が付いていない…


その時、



この画面を見て、ハッとした

凄く嫌な気分になり、見なかった事にしようと画面を閉じた

この事は口に出さなかった