検案書
刑事に教えられた診療所は、宿から離れていた
前日に「ここから近いですから」と言われたのだが、
山道の20kmは、かなり遠く感じた
診療所の待合室で、受付の人に呼ばれた
「この度は大変な事になりましたね」
私は「はい」としか答えられなかった
封筒の中身は、“死亡診断書"に斜線を引かれ、“死体検案書"となっていて、
会計は4万円弱だった
そっか、これを貰うのは有料なのか…
そんな事を考えていた
死亡したとき…4月29日頃(推定)
死亡したところ…〇〇北方500mの山林内
山には名前が無く、住所がない
近くの交番の住所が書いてあった
(ア) 直接死因…乏酸素性窒息
(イ) (ア)の原因…意識消失
(ウ) (イ)の原因…空気遮断
死亡までの期間…短時間
外因死の追加事項…5月3日午前8:30山林内に
はられたテント内でビニール袋を頭部にかぶり
ヘリウムガスをホースで引き込んで死亡している所を発見された
帰りの山道を、泣きながら運転した
警察署に着くと、駐車場で葬儀屋が待っていた
検案書の裏は死亡届になっている
「氏名の所から記入して下さい」葬儀屋に言われペンを渡された
この子が産まれた時には、赤い出生届を書いた
名前の漢字を決めて、届に記入する時は幸せだった
何故、こんな黒い紙に名前を書いているんだろう…
涙が止まらず、刑事が私にティッシュを箱ごと渡した
葬儀屋は「これから旅立ちの支度をするので、昼の1時に、また来て下さい」と、
私が記入した死亡届を受取り、役所に向かっていった
子供達が中学生くらいまでは、よくスキー場に行っていた
次男は幼稚園に入るとスキーを始めた
あまりエッジを使わず、直滑降で滑ったりするので、
見ていて怖かったが、怪我をした事は無い
多い年には、1シーズンで20回ほど行っていた
私はスノーボード、次男はスキーで、よく一緒に滑った
私も風の音を聞き、綺麗な山を見ながら滑るのが、好きだった
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