まだ少し待っててね

20歳の次男が2017年4月に自死しました

次男誕生

産まれた時から次男には驚かされた


出産予定日の明け方4時頃に、

お腹が痛み始めた


長女の幼稚園の弁当を作ったり、

洗濯物を片付けたりしながら、

明るくなるのを待っていた


離婚した前夫は、ひとり親方の職人で、

納期さえ守れば、自由に休みや時間を決めることが出来た


みんなが起きてから、ご飯を食べさせ、

制服を着せた後、幼稚園経由で病院に向かって貰った


病院では、出産前に浣腸をされる

私は「今回はやめて欲しい」と頼んだが、

マニュアル通りの看護師に、「決まりですから」と

断られてしまった


トイレに入ると、便器の中で頭が出てきた

パニックになった私は、とりあえず手で押さえた


ナースコールをすると、すぐトイレから出てくれと言われた


廊下に出ると、院長先生が白衣に着替えながら走っている


私は廊下の真ん中で立っていた


「もうだめ…」

そう言った瞬間に次男が落ちて、羊水が勢いよく流れ出た

院長は滑り込みでキャッチしていた


それからすぐに私は、廊下から分娩台に移動した

順番が逆だから笑ってしまう


4回の出産で、1番あっけなく終わり

不思議な気分だった


浣腸をした看護師が、

「浣腸しちゃってごめんなさいね」と謝ってきた

「だからやめて欲しいって頼んだのに」と私は笑った


私は4人共、同じ病院で出産している

いつもの流れだと浣腸されるだろうと、わかっていた


産湯で洗われた次男を、私の横に置き、

助産師が写真撮影をすると、

「一応、細菌感染とか心配だから、保育器に入れますね」と連れて行き、私の産後の処置に入った


この病院は、院長自らが体験した話を交えながら母親学級をする


次の母親学級から数回は、

私の出産の話をされるんだろうな…と考えていた


出産の時の話は、次男の伝説の1つだ






夜には保育器から出されていた

私の所まで連れてきてくれて

カメラが趣味の院長が撮ってくれる



20年前なのに、

まるで昨日の事のように覚えている


あの時は、こんな事になるなんて

想像もしなかった…

死の経験

私は、近い身内の死の経験が少ない方だと思う


1度目は祖父(母方)

長女がお腹にいた時で、

肺癌だった


2度目は祖父(父方)

私が離婚した翌年、

老衰だった


3度目は祖母(母方)

長女が中学3年生の時で、

老衰だった


いつも長女は、

「私は子供は1人しかいらない」と言っていた

でも曾祖母が亡くなり、葬儀で色々な人が泣いているのを見ると、

「悲しんでくれる兄弟や子孫が、沢山居てくれるのは幸せだね

やっぱり子供は沢山産んだ方がいいね」と言った


それを聞いていた親戚の叔母さんは、

「いい子に育てたね」と私に言った


その場には、小学校3年生の次男もいた


4度目は、祖母(母方)が亡くなった年から

飼い始め、

一昨年の夏、腎不全で亡くなった犬

10歳だった


次男は、私の父方の祖父から、犬の死までを見てきた


身内やペットの死を見ると、

命の大切さがわかる子供に育つ…と聞いた気がするが、

どうだったのだろう


母子家庭で寂しい思いをさせたけれど、

自分なりに頑張って育児をしたつもりだった


でも次男には、私が大切にしていた事が、伝わってなかったのかもしれない


祖母(父方)は90歳を超えて

「早く死にたい」と言うようになった

「年下の友達まで死んでいく、寂しい」と…


長男と次男は、今年の3月に、

曾祖母の所に遊びに行って、

この台詞を何回も聞いたそうだ


5度目の死は次男

私は、祖母に次男が居なくなった事が言えないでいる




何故、舌なめずりしてるかというと、





唐揚げを我慢して

“待て"中だから




2015年の春、この子の最後のお花見になった

大好物の唐揚げを貰えるから、

毎年、お花見を楽しみにしていた


今頃、この子は次男と、

お散歩しているのだろうか…

お金の悩み

私は離婚してから、養育費を貰った事がない


なので、子供達には「学費は高校までだからね」と言い続けてきた


新聞奨学で長女は大学に、長男は専門に、

次女は育英会の奨学金で専門に行った


次男は、大学に進学希望だった

オープンキャンパスは、工業大学を2つ見に行った


工業大学は、時間が長いし、学費が高い

長女や長男が頼んだ新聞奨学では、夕刊があるので時間的に無理だし、学費も足りない


「夕刊のない産経や日経にするか、融通がきく読売で朝刊のみにするか、

そして足りない学費は育英会の奨学金にしたら?」

「実技が多くて、新聞奨学が時間的に無理なら、

次女みたいに育英会で全額借りる事にするとか?」と次男に言ってみた


行きたいと言っていた大学の進路相談の担当の方が

「次男くんの高校なら、校長先生の推薦状があれば、それで合格」

「 その高校なら入学金も半額でいい」

「学費の500万円は大きいが、うちは大手の会社に就職する事が多いから、すぐ返せるよ」

などと言ってくれたのだが、次男は、大きな借金が出来るのは怖いと、とても悩んでいた


高校の三者面談では、ずっと大学に進学のつもりだと言っていたので、

やはり就職で…というのは、時期が遅すぎて、

高校での就活は終わってしまっていた


就活担当の先生が、職安で探してきたエコキュートの取付工事の会社は、

面接したら、すぐ採用に決まった


「やりたい仕事をゆっくり探した方がいい」

と何度も言う私に、次男は

「せっかく先生が探してくれたのだから」

と簡単に決めてしまったのだが、結局は辞めてしまった





離婚した時に、前の猫を置いてきてしまったので

新しくキジトラ子猫を貰ったのだが、

今年の春に18歳になった

お爺ちゃんだけど、まだまだ元気だ




この子は、次男が大好きだ

次男の椅子に座り、次男の帰宅をずっと待っていた

とても寂しそうだ