まだ少し待っててね

20歳の次男が2017年4月に自死しました

ポンペイ

長女は新聞奨学生で大学へ行った

入学金から授業料まで新聞社が立替え、

最後まで勤めあげれば、奨学金は返済する必要が無い

学校の近くの販売店の寮に住込み、新聞配達をする

寮費は無料で月々の給料も出るが、睡眠は毎日2~3時間で、

勿論、遊ぶ暇は全く無いし、体力的にもキツい

だから学業と両立出来ずに、辞めてしまう人が多いと、奨学生説明会の時に聞いた


夜中の2時に販売店に行き、広告を入れたら朝刊を配り大学に行く

午後2時に販売店に行き、夕刊を配ってから、また大学に行く

毎日そのくり返しだ

集金も毎月あるし、営業もさせられていた

4年間、頑張った長女は、新聞社からのご褒美でカナダ旅行をした


卒業式の2ヶ月くらい前、少し早めに奨学生を終え、長女が家に帰ってきた

「4月から就職だから、なかなか遠い所へ行けなくなるね」

と話した私は、春休み中の長女と、2人で旅行する事にした


8泊10日のイタリアパックツアーを予約して何日かすると、

旅行代理店から家に電話があった

「ローマ法王が、急に辞任してしまったので、バチカンに行けなくなりました」


イタリアに向かう朝、成田では中国からの黄砂がひどく、

飛行機の中で4~5時間待たされた

ローマに着くと、添乗員がバスの中で話し始めた

「先程、コンクラーべで次のローマ法王が決まりました

皆さんは、凄く歴史的な日にローマに来ることが出来ました

法王が決まったので、明日は予定通り、バチカンへ入れます

昨日来た人達は行けなかったんですよ、良かったですね」

私達はツイてるな…と思った


次の朝、バチカンに行くと日本の報道陣を何人か見かけた

記念に新聞でも買おうかな…と思ったが、

イタリア語は読めないし無駄かな?と、買うのをやめた


この旅行は、なかなかの弾丸周遊ツアーで疲れた


真実の口に手を入れるというお約束のポーズで、

長女と2人の写真を撮って貰った

「ここに並ぶのは日本人ばかりなんですよ」と、添乗員が言っていた

そこら中、日本語ばかり聞こえてきて、おかしくて笑ってしまった


一応、SDカードは2枚持っていった

私は写真を撮りまくり、ポンペイを周り終えるとデジカメのSDを入れ替えた

私は、この最初のSDを落としてしまったらしく、長女にひどく責められ、かなり凹んだ

イタリアの前半の写真は、本当に少しだけ携帯で撮った物しか残っていない


バチカン

たしかこの窓の向こうがコンクラーベの部屋だと言っていた気がする


凱旋門とコロッセオ

コロッセオの中

昔、ここで闘いがあったのかと思うとドキドキした

私と次男はグラディエーターという映画が好きだった


コインを後ろ向きで投げた、トレビの泉

お願い事を言うのは忘れてしまったが、

ジェラートは買って食べた

スペイン広場でジェラートを食べるのは禁止になりました…

と添乗員が言っていたが、よく見ると食べてる人が居る


オレンジ屋根が可愛いアマルフィ


ピザ自販機なんて初めて見た


いちいち可愛い公衆電話


滞在時間がたったの3時間だった、ポンペイ

この遺跡が発掘されたばかりの頃、モーツァルトも観光したという

今まで写真や映像でしか知らなかった、舗装された道の轍なども、

自分の目で見る事が出来て、2人で感激しながら歩き回った

公衆浴場を見て「テルマエ・ロマエだー」と長女と話したりした

火山が噴火するまでは、ここで生活してたんだな…と思うと、本当にワクワクした

この性器は矢印で「風俗店はこちら」と、指している


カプリ島と青の洞窟に向かう船が、天候が悪くなった為に欠航となり、

残念ながら行けなくなった

ナポリは治安が悪い様なので、考古学博物館に行って時間を潰した


ピサの斜塔でも、つまんだり、支えたり、お約束の写真を撮った後、

その日のホテルがあるフィレンツェに向かった

「比較的治安がいいから、夜に出歩いても大丈夫ですよ」

と言われ、Google mapを見て、迷子になりながら散歩をした


フェラーリの会長が作ったという高速の電車に乗った

ホームは喫煙OKで、男女とも歩き煙草してた

トリノは、どこを観光したのか忘れてしまった


ベネチアで1泊

勿論このゴンドラにも乗った

「ウォーターセブンだねー」

散歩すると、テンションが上がった

ベニスの祭りは終わってたが、仮面を買うか迷い、高いので諦めた


ヴェローナでは、ジュリエッタの家に行った

「この像の右の胸に触ると結婚できます」と、添乗員が言うと、長女も私も触った


ミラノから飛行機で帰国すると、長女は「そのまま新潟のイベントに参加するから」

と言ったので成田で別れ、私は1人で自宅へ向かった

帰宅して、土産(ポンペイで買った本、なぜか日本語)を次男に渡すと

「いいなー、俺も行きたかったなー」と言った

最寄駅からの帰り道、桜が綺麗に咲いていたので、

「今からお花見に行こうか」と、

毎年、必ず行く公園に、次男と犬を連れて桜を見に行った


次男も小さな頃から、世界遺産の図鑑を眺めて、ポンペイに行きたがっていた

この時は、高校があったから行けなかった

「今度は次男くんも、ポンペイやカプリ島に一緒に行こうね」

と約束をしたが、結局、これも果たせなかった