まだ少し待っててね

20歳の次男が2017年4月に自死しました

4人兄弟

「お子さんは何人いるの?って聞かれたら、

私は、何人て答えればいいのかな?」

「“3人"でいいんじゃない?」彼氏は答えた


確かに“4人"と答えると

「子供達は何やってるの?」と聞かれた時に、

「次男は逝ってしまったんですが…」と答える事になるかもしれない

でも私の子供は、“4人"で“3人"ではない

次男を居なかった事になんて、したくない


「やっぱり“4人"って答えるかな」


次男が逝ってしまった事に、私は納得が出来ていない

理由もわからないし認めたくもない


身近で死の経験が、殆ど無かった私は、

“この世界から消えてしまう

会えなくなってしまう"という事を、考えた事が無かった


祖父や祖母が亡くなった時は、悲しかったし寂しかったが、

順番だと頭でわかっていた


飼っていた犬が、虹の橋を渡った時にも、

ペットは必ず先にお別れをしなければいけない…と

わかっていた


けれど子供は違う

順番が逆だ


次男は親不孝をしたんだ

自ら命を絶つなんて…

とても優しくて、人の気持ちがわかる子だった筈なのに、

どうして家族をこんなに悲しませる事をしたんだろう…


「次男くんは幸せだったかな?

それとも幸せじゃないから、逝ってしまったのかな?」と聞く私に、

「わからないけど、次男くんにとっては、

この世界は生き辛かったのかもしれないね」と彼氏は答えた


刑事は「最期は、あまり苦しんでないと思います

短時間だったようです」と言っていた


体には、引っかき傷も無かった

次男は今、楽になれたんだろうか?


20歳は小さな子供ではないけれど、

親から見れば、幾つになろうと子供なのに…


親より先に逝くなんて親不孝をしたんだから、

賽の河原で石を積まされてるかもしれないな…


色々と考えてしまい、

2晩、一睡も出来ずに朝を迎えるなんて、初めてだった

宿で、子供達の部屋に下りると、3人は既に起きていた


「もし今後、何人兄弟なの?って聞かれたら

何人って答えるかなって話してたんだ」

長女が言った


「何人て答えるの?」私が聞くと、

「4人だよ」長男が答えた

「弟が、ここに居なくなったって、俺達はずっと4人兄弟だ」


やっぱり親子なんだな、私達は…

そう思った


2晩寝ていない私が運転をするのは危険だと、

免許証を持ってきていた長女が、帰りの運転をしてくれる事になった


お骨になった次男は、1週間ぶりの帰宅となった



りんどう湖ファミリー牧場

サイクリングしたり、動物を見たりした

長男の足は、裏の柵にかけているだけなのに、

長女が「心霊写真だ~」と騒ぐと、次男は喜んでいた


東松山のこども動物自然公園は、

コアラがいる動物園で、恐竜コーナーがある

次男は恐竜が好きだった

迷いびと

次男は、幼稚園の遠足でも、博物館でも、スキー場でも、

どこへ行っても、しっかりと手を繋いでいないと、

居なくなってしまう子だった


ナンジャタウンに連れて行った時には、

1日に8回も迷子で受付に行く事になり、

係員に笑われてしまった






小学4年生までは捜索願の常連で、

「またですか」と警察に言われる事もあった

迷いびと放送も、何度掛けたかわからない


仲よくしていたパパ友に、父子家庭の人がいた

海や山のバーベキューなどに、私達を頻繁に連れて行ってくれた


「小学生の頃に、サラミを1本持って、1週間くらい家出した事があるんだよね

公園とかに野宿したりしてね……」


その人の昔話を、次男は目を輝かせ聞いていた

私は、嫌な予感がした


小4になった次男と、中1になった長男が、

夜になっても帰らない事があった


捜索願を出すと次の日の昼に、2人は健康ランドで確保された


2人は「公園の滑り台で、星を見たりしながら寝た」と言っていた

「寒いし疲れたから温まろう」と、健康ランドに行くと、

警察署から連絡が来ている男の子2人だな…と思った係員が、

2人がお風呂に入るのを確認した後に、警察署に連絡をしてくれた

そして警察署から、うちに連絡が来た


この“公園で1泊の家出"を最後に、次男は勝手に居なくなることが無くなり、

よく居なくなったりしてたのも、まだ小さかったからなのかな…

そう思っていた


「いつも勝手に居なくなったら、だめなんだからね」


小さな頃から何回も何回も何回も、言って聞かせ続けたのに、

次男は、また私の元から、

この世界からも勝手に居なくなってしまった

海での捜索

茨城県の海水浴場に連れて行ったら、ほんの少し目を離した隙に、

次男が行方不明になった事があった


4歳の次男は、死んでいる大きな魚を抱えていた


私は、左右にいた長女と次男に、同時に話しかけられた

長女に答えてから次男の方を向くと、もう次男は居なかった


朝10時頃から5時間ほど、海の監視員は空から、

私は歩いて次男を捜していた

海の反対側は崖の様になっていたので、

心配で堪らなかった


夕方になれば見つけ辛くなるからと、

15時過ぎに警察に捜索願を出すと、

千葉県の海の家で保護されていた


次男は「まま~」とニコニコしながら、

パトカーから降りてくる


「子供は、海岸線をずっと歩いて行ってしまうという事が、よくあるんですよ

それにしても、ここから次の海水浴場までは、

かなりの距離があるのに、よく頑張って歩いたね」

次男の頭に手を置き、巡査が笑った


「次男くん、何やってんの」と私が言うと、

「見て見て~こんなに沢山、蟹捕まえたんだよ~」と満面の笑みで、

バケツを見せてきた


「ご飯を食べさせた後、バケツを与えたら、

静かに蟹を捕まえていて、お昼寝もしました

お利口でしたよ」

と海の家のおじさんは言った


「いつも勝手にいなくなったら、だめだって言ってるでしょ」と私が言うと、

「死んでいるお魚さんを、埋めに行きたかったんだ

そのままだと可哀想だから、埋める場所を探そうと思ったんだ」と次男は答えた



次男が逝ってしまったという事を、

私の友達には、3人だけにしか知らせていない

同じ位の年の男の子がいる友達には、なんとなく教えたくないからだ


茨城の海に一緒に行ったのは、私が中学の時からの同級生で、

遺骨を持ち帰った時に、LINEで連絡した


友達は、仕事が終わると疲れているのに、

わざわざ他県からお線香をあげに来てくれた


「茨城の海の時は、居なくなって大変だったよね」

「うちに来た時、〇〇ちゃん、このピーマン食べてもいい?って

次男くんが私に聞いてきた顔を思い出しちゃって、

仕事が手につかなかったよ」


結婚してからも家が近くて、子連れで遊んでいた

次女を出産する時には、上の子供2人を1週間預かってくれた

友達が離婚して他県に引っ越してしまってからは頻繁に遊ぶ事もなくなり、

最近はLINEの会話だけだった


久しぶりなのに、今回の事でなんて会いたくなかった


友達の子供は女の子2人

一緒に公園で水遊びしたあとだ


友達が引っ越すまでは、よく遊んでいた