まだ少し待っててね

20歳の次男が2017年4月に自死しました

やりとり

「次男くんは借金がありましたか?」

「いいえ」


「最近、医者に掛かったり、薬を処方されたりは?」

「たしか1月頃に、風邪で高熱が出て内科に掛かりました

薬は咳止めと頓服だと思います」


「死にたいと口にした事はありますか?」

「いいえ」


「タバコやお酒やギャンブルは?」

「いいえ」


「職場が嫌だとか、友人関係の悩みとかは?」

「仕事は楽しいと言っていたし、友人関係の悩みも聞いた事ありません」


「眠れないと聞いた事はありましたか?」

「仕事を休んでいる間、幾らでも眠れる

寝過ぎてしまって困るとは言ってましたが…」


「自宅の近所に〇〇という薬局が、ありますね?

そこでドリエルという睡眠薬と、パンとガムを買っています」

見せられたレシートの時間は、4月28日の11:30過ぎだった


「ヘリウムガスの商品名はバルーンタイム、

かなり大きな物ですが、

自宅で見た事はありませんでしたか?」

「ありません」


「夜の8時前に、大きな荷物を何個か持った少年を見たと、

最寄の駅長が確認しています

駅を出てから山に登りテントを張り、中でドリエルを飲んだ後に、

装置を被り実行したと思われます」


1時間ほど、色々と聞かれると

「支度が出来たので確認お願いします」と言われ、霊安室に移動した


次男は部屋の真ん中で横になっていた

触ると氷の様に冷たい


5日間もテントの中に居たのに、

においも全く無く綺麗で、

ただ眠っている様にしか見えなかった


「次男くん、何やってんの?」

話しかけた瞬間、涙が溢れ出てきた







これは次男が4月28日に、うちの近所の薬局で買ったパンだ

ガムとドリエルはテント内に残されていたが、

パンは次男の机の上に置いてあった


次男は、このパンが好きで、よく食べていた

買ったが、逝こうと決めたら食べられなかったのではないだろうか…


たぶんあの日は、何も食べずに山に登ったのではないだろうか…

2回目の寝坊

「支度があるので、まだ次男くんには会えません

それ迄、少しお話を聞かせて下さい」


まず、次男の氏名、現住所、本籍地、生年月日、職業、家族構成を聞かれた


「ご家族が来られる間に、次男くんの会社に電話を掛けて確認したのですが、

4月7日に欠勤されて、それ以来お休みされてたそうですね?」


4月7日に欠勤?

確かに次男は貯金が出来たから、1ヶ月ほど休みたいと言っていた


「4月7日に出勤して来ないので、

会社が次男くんの携帯に連絡したそうなんです

次男くんは、寝坊しました、すみません

今すぐ行きます…と答えたのに出勤しなかったそうです」



寝坊したから行き辛くなったのか…

それで休みたいなんて言ってたんだな…



「次男くんの遺書は、家にありましたか?」

「動機は、わかりますか?」


「え?事故では無いのですか?」

私を含め家族全員、本当に驚いた


「はい、次男くんは自殺する為の装置を作っていました

ネットで検索すると、ヘリウムガス自殺で安楽死ができると書かれていたりします」


「睡眠薬を飲んだ後に、ガスのボンベをチューブで繋いで、

袋を頭から被って密閉してから、寝袋に入り横になった状態で発見されました

死因は窒息死です」


そこまで聞いたら、ハンマーで頭を殴られた感じがして、

今度は目の前が真っ暗になった








次男の携帯に入っていた桜の写真

桜が好きで、毎年お花見に行った


うちの辺りでは4月前半には散った気がするが、

5月なのに寒いからか、その周辺では咲いていた


今回、次男は夜にここへ来たから、

桜は見えなかったんだろうか


それとも夜桜を見ながら、

山を歩いたのだろうか…

警察署へ

「誰か1人だけは留守番して欲しいって」

私は、そう言った

「嫌だよ、留守番なんかしたくない」と子供達は拒んだ


次男の身分を証明する物なんて何も無かった

免許も住基カードも持っていない


とりあえず、写真と年金手帳、キャッシュカード、

保険証、内科の診察券とレシートの裏の書き置きを持って家を出た


私はナビをセットした

ナビは軽井沢経由の道を案内していた


GWだから渋滞で、なかなか進まない


動かない車を見ながら、軽井沢には2回くらい連れてきたな…と考えていた



長男が「次男は、たまにヘリウムで声変えて遊んだりしてたけど、

あんなのじゃ死なないよ」と言った


でも少し前にヘリウムで重体になってたアイドルが居たよね…?

じゃあ事故って事?…

山登りに行く時に、ヘリウム持ってくの?

山で声を変えて遊ぶかなあ?


考えていると訳がわからなくなり、

それからは無心で運転していた


やっと警察署に着いた時には、家を出てから7時間以上経っていた


受付から刑事課に行き、小さな部屋に通されると、

机に色々な物が並べられていた


「次男さんの持ち物で間違いないですか?」


「はい」



頭の中が真っ白になった






夏休みに軽井沢の火山の博物館に行った

次男は博物館が大好きだった



名前は忘れたけれど、滝にも寄った

マイナスイオンが流行ってた頃だった