まだ少し待っててね

20歳の次男が2017年4月に自死しました

大みそか

子供の頃は、クリスマスが終わると、街やデパートの中とかが、

あっという間に年越しムードになるのが、面白いなと思っていた


祖父が障子を張替えたり、電球を取替えたり、車やカブにお飾りをつける

祖母は大掃除をしたり、黒豆を煮たり、お節の準備をする

紅白の後に、ゆく年くる年を観ながら年越し蕎麦を食べて、

お年玉を貰ったら、近所の神社に初詣に行った



うちの子供達が小さな頃の大みそかは、アメ横に出掛けたり、

毎年、家族で適当に年越しをしていた

ボーイスカウトでお寺の鐘撞に行くと、カップ麺で年越し蕎麦を食べる

歩いてると寒くないが、食べてる時は寒い

神社にカウントダウンと初詣に行く年もあった


長女が新聞奨学で寮に入ると、初めて長女抜きの年越しに、

長男が新聞奨学生になると、長男抜きの年越しに、

次女が専門学生になると、友達と年越しすると言い、

去年は、次男も友達と年越しをした


私は、子離れが遅いのかもしれない

子供達の成長は、嬉しさと寂しさが半分ずつな気がしている


幼稚園の餅つき

つきたてのお餅にきな粉をまぶして食べた




夫は小学2年から、カシオペアやCharが大好きで、小遣いでレコードを集めていたそうだ

東北でライブすることは殆ど無いので、

自由に音楽を聴きに行ける東京に、子供の頃から憧れていた

高校3年生になると、夫は親を騙して、東京の専門学校に進学を決めた


うるさくて厳しい親から解放され、自由気ままな東京での1人暮らしが、

嬉しくて、とても楽しかったと言っていた

あまり登校せず、両親が東北から呼び出されたこともあったという

卒業式にも不参加で、卒業証書は郵送で実家に届けられた

卒業したら戻るから…という約束も守らず、

借金の肩代わりをして貰ったり、何年も音信不通にしたり、

両親には本当に迷惑を掛けてしまった

お袋の耳が聞こえなくなってしまったのは、

もしかしたら自分のせいかもしれない…と、涙目で話してくれた


その話を聞き、義父母は、どんなに心配で寂しかっただろう…と思った

18年育てた可愛い息子が、遠く離れた東京に行き、

卒業したら帰ってくると信じていたのに、借金の肩代わりをさせられ、

その後、音信不通になってしまうなんて…


自分に置換えて考えたら、ありえないと思った


夫の弟も、高校を卒業すると、夫を追いかけるように上京した

「その時、うちには子供なんて最初から居なかった…と思うことにした」

と、義父は言っていた


今の家で同居を始める前に、私が子供達と暮らしていることを、

不思議に思っていた彼が聞いてきた

「なんで高校を卒業したのに家を出ないの?」

私は、逆に不思議に思った

「なんで出なきゃいけないの?」

新聞奨学の時は、長女も長男も家を出て寮に住んだが、終わったから戻ってきた

仕事の都合で…とか、1人暮らししたいから…とか、

理由があって家を出る子もいると思うが、結婚しても同居する家だって沢山ある

そして、うちは別々に暮らす理由が何も無かった

「夫くんや弟くんは、田舎に住んでたから、東京に憧れて家を出ただけでしょ?

うちの弟だって、30過ぎても実家暮らしだったし、

従兄弟だって40過ぎたって実家暮らしだよ

家にお金を入れてるんだし、

家族なんだから一緒に暮らすのは普通でしょ?」



義父母が元気なうちに、東北へ移住して同居しよう…と、私は考えている

けれど、まだ次女は22歳だし、もう少し経ってからかな?と思っている

仕事納め

私が2年前まで勤めていた会社は、朝が早く夜も遅かった

「一緒に過ごす時間が少ないから、転職して欲しいな」

彼と同居を始める時に言われ、一昨年の11月に退職をして、

12月から近所でパートを探した


面接をすると、私の希望とは、仕事内容も勤務地も全く違うものになり、

車での通勤時間が、往復2時間も掛かる場所へ配属になった

土日祝日は休みにして欲しいと、面接で伝えたが

「最初だけだから、人が集まるまでお願い」と、シフトを入れられた


遠いのに交通費が出ず、時給が安い、仕事内容は求人と違うし、辞めようかな…

悩み始めた去年の6月、家から歩いてすぐの所に、求人の貼り紙を見つけた

電話を掛けると、週に3日間の勤務で、すぐに採用が決まった


最初の2ヶ月間は、掛け持ちで働いていたが、近所のパート先で、

「もう1人のパートさんが辞めてしまうので、

毎日来てくれません…?」と相談された

遠い職場を辞め、8月からは近所の職場に毎日行くことになった


この職場は、ボスと女上司と私の3人しか居ない

ボスは大体、自分の部屋に居て、顔を合わせることが少ない

女上司は、私とたぶん同世代で勤続20年以上だと思うが、

私が出勤する日は殆ど仕事をしない

雑誌を読んだり、ネットを見たり、スマホを弄ったり、

水晶か何かを繋げたりしていて、いつも私に仕事をさせている


彼女は、スピリチュアルな世界が大好きなナチュラリストで、

色々な洗脳を仕掛けてくる


シャンプー、洗剤、柔軟剤、紙ナプキン、煙草(大麻ならOK)、

小麦粉、白砂糖、牛乳、化学調味料、西洋医学などが嫌いで、

瞑想とヨガを欠かさず、経血コントロールや、セルフ腸内洗浄もしている

趣味は、断捨離と怪しげなセミナー通いだそうだ



「(私)さんの猫は、異次元に迷い込んだんだと思います

外に出て居なくなったんじゃ無いんだから、玄関のおまじないは、意味が無いでしょう」

彼女は、真顔で私に言った


彼女が好きな物を、否定するつもりは無いが、

自分が正義だと思っていて、私に意見を押し付けてくるのでタチが悪い

うっかり反論しようものなら

「せっかく教えてあげてるのに…気分が悪い」

と、マシンガンで文句を言ってくる


「去年辞めたパートさんが、某カルト宗教を布教してくるのが迷惑なんだけど」

と、彼女は言っていたが、私から見たら、ナチュラリストも宗教みたいな物だ

「経皮毒がー」

「引き寄せの法則がー」

そんな話は、はっきり言って聞きたくない


彼女が仕事をせずに、私にだけ働かせることにも腹が立つが、

この人の押し付けと決め付けが、何よりも嫌でたまらない


うちの次男が逝ってしまった後、彼女が父親を亡くした時の話をした

「私は葬儀で泣いたら、それですっきり終わった

父が死んで2年も経つのに、うちの姉は、まだ引きずってて悲しいとか言うんですよ

本当にドン引きですよ」

そう言い放った彼女に、私がドン引きをした


「(私)さんは、引き寄せてるんですよ」

「何をですか?」

「今年、不幸な出来事が色々とあるのは、

潜在意識でそういう事が起こると、思っているからなんです」

私は、少しムッとして答えた

「私が災難を貰いたいなんて、思ったりする訳がないじゃないですか」

「だーかーらー、自分じゃわからない潜在意識が、災難を呼んでいるんですーぅ」


私が潜在意識で、次男に逝ってしまえと、

洗濯機に壊れろと、車の追突事故にあえと、

猫に消えろと願ったと言ってるのか…??


「へー、そうなんだ?」私が適当に相槌をすると

「そうなんですっ」彼女は、念を押した



仕事から帰宅すると、すぐに夫に愚痴った

「相変わらず、彼女はデリカシーが無いね

普通、子供を亡くした人に、そんなこと言うか?

もう無理なら、我慢せずに転職したらいいよ」

そして私は、無気力が増した

職場に行くことを考えると、胃痙攣を起こし、胃液を吐く


これまで、この職場はパートの人が続いたことが無いらしい

私は1年半になるが、皆が半年から1年以内に辞めてしまうのは、

きっと彼女のせいなんだろう

もう少し我慢をするつもりだが、私も、いつまで持つか、わからない

仕事中、ほぼ彼女と2人きりなのに、そんなことばかり言われ続けているから、

朝から憂鬱が増し、仕事を休みたくなるんだなと思っている


今日は仕事納めだ

午前中は通常業務、午後は大掃除をする


本当は明日から3日までが、正月休みだが、

夫は6日まで休みなので、私も希望休を出すつもりだ




次男と犬

雌だけど次男にしがみつく


次男とキジトラ猫


みんな、どこへ行ってしまったんだろう

8回目の命日

2年前に越してきた今の家は、前の家よりも部屋数が少なく、子供部屋は3部屋しかない

4人はジャンケンで部屋割をした

長女と次女は個別の6畳部屋に、長男と次男が8畳の相部屋に決まった


次男が寝ていたロフトベッドは、次女のおさがりだった


次女は4歳からピアノを習っていたが、

中学で吹奏楽に入部すると決めていたので、

小学校を卒業する直前から、トランペットも習い始めた

その時に中古のトランペットを買った


次女が中1の秋、生徒会副会長になったので

「ボーナスが出たら、お祝いで新品のトランペットを買ってあげるよ

予算は20万円くらいね」私が言うと

「トランペットとシャイニーケースと、ロフトベッドが欲しいんだけど」と次女は答えた


シャイニーケースは、案外高かった

結局、楽器店で13万円くらいのトランペットとシャイニーケース、

ニトリでロフトベッドを買った

そして中古で買ったトランペットは、次女が次男にあげた


次の年、次男が中学で吹奏楽に入部すると、トランペットで希望を出したが、

男の子だからという理由でチューバになった

チューバの値段は150万円くらいすると聞いたので、

学校の楽器をレンタルして、マウスピースだけを購入した


前の家に住んでいる時、あんなに欲しがって買ったベッドを

「やっぱりいらないから弟にあげる」

と、次女が次男にあげた

次男は居なくなるその日まで愛用していた


次男が居なくなって暫く経ち、長男は遺品整理を始めた

たまたま部屋に行くと、長男が次男のボーイスカウトの帽子を捨てようとしてたので、

私は慌ててゴミ袋から拾った

「なんてことすんの」私が怒って言うと、長男は

「だってボーイスカウトに入らなかったら、弟は山なんか好きにならなかった」


長男が部屋を片付け、ロフトベッドを解体した

私は、次男がいた部屋から次男の形跡が消えていくのが寂しくて、リビングに戻った

今は、次男が過ごしていた部屋とは全然変わってしまっている


次男が買ってくれた、このカレンダーは、あと2日で終わってしまう

この家から少しずつ、少しずつ、次男の形跡が減っていく…