まだ少し待っててね

20歳の次男が2017年4月に自死しました

札幌へ

私は、函館、登別、旭川、網走、釧路なら行った事があったが、札幌は初めてだった


遺骨ペンダントを握りしめ、

「次男くん、札幌に着いたよ」と話しかけた

次男は高校の修学旅行で、札幌と小樽に来ている


うちの子達は、幼い頃からよさこいを習っていて、

近所で祭りがあると、衣装を着て鳴子を持ち参加した


1番踊ったのは“たきおのソーラン節"だ

小中学校の運動会でソーラン節の練習をする時には、

手本になり、皆の前で教えたりしていた



長女は今年、誘われたチームに入り、札幌で踊る事になった


6月10日は雨が降っていて、

長袖を着ていても、とても寒かった


どこかの子供達のチームが“たきおのソーラン節"で、よさこいを踊っている

幼稚園か小学校1年生くらいの子が、一生懸命に鳴子を動かすのを見ていたら、

次男が小さな頃、同じ様に踊っていた記憶が蘇ってきて、涙が出てきた


祭りはムービーで毎回撮っていたので、

うちの子達の、よさこい動画は沢山残っているが、

あの頃は、HDDではなく小さなテープだった

そしてデジカメは乾電池を入れるタイプで、

電池は何枚か撮ると無くなった

携帯電話のカメラで撮影した写真は、今見ると、かなり画像が粗い


動画を撮ってばかりいたので、殆ど写真が無いのを残念に思う

よさこい

心療内科で処方されたメイラックスとジェイゾロフトを全て飲みきる頃には、

毎日3時間位、続けて眠れる様になっていた


2回目の心療内科へ向かう車の運転をしながら、

「薬を減らして貰おう」と考えていた


「どうですか?」聞かれた私は、

「少し続けて眠れる様になりました」と答えた

「それでは、薬を増やしましょう」

「え?少し眠れる様になったから、減らして頂きたいんですが」

私がそう言うと、医者の目が翳った気がした

「じゃあ、そのままの量にしましょう」


今回の診察は5分と掛からなかった

きっと私が、薬を増やす事を拒んだからだ

「次回の予約は3週間後」と言われ、モヤモヤしながら診察室を出た


その夜、私の体から発疹が出始めた

痒い…

常備薬のレスタミンを飲んでも痒みが治まらずに、発疹が増えていく


多分これは薬疹だな

薬は2週間後から効き始めると言っていた

効いてきたから、ポツポツ出てきたんだな…


「そういう薬を飲まないで」

次男が言っている気がした

心療内科にキャンセルの連絡を入れ、薬を飲むのをやめた


近所の病院で発疹を診てもらい、レスタミンの塗り薬を貰った


長女は今年になってから、参加するよさこいチームの練習に毎週行っていた

次男は、このポスターを見て

「すごいねー、長女ちゃん」と言っていた


「札幌まで見に来てよね」

長女は、私と彼氏に、宿と飛行機のチケットをプレゼントしてくれていた


「弟の49日も終わってないのに、よさこいどうしよう」

また長女は悩んでいた

「次男くんがすごいねーって言って応援してたんだから、

行って踊った方がいいと思うよ」


6月10日の早朝、羽田に着いた時には、私の全身が発疹で真っ赤になっていた

体調不良

去年の秋、私は体調を崩して2ヶ月間、出血が止まらなくなった

貧血が酷くなり、仕事中に腕をあげようと思っても、

自分の体ではない様な重さで、あがらない

フラフラして歩くのも辛かった


この辺の産婦人科を知らない私に、職場の人が紹介してくれた

医者は「この量の出血が続いてるとなると、癌かもしれないな」と言った


貧血と子宮頸癌と子宮体癌の検査をした

結果は1週間後だからと、薬を処方される事もなく帰された


次の週、検査結果に頸癌も体癌もなく、貧血だと診断された

貧血が酷いから止血して貰おうと、婦人科を受診したのだから、

診て貰う前から、そんな結果は知っていた


出血の原因は、わからなかった

その婦人科で、プラノバールとフェロミアを10日分だけ処方されたが、

飲みきっても貧血は治っていない


この病院は私と合わないな…と思い、少し遠いが、前に通っていた婦人科に戻ることにした

処方されたピルは3ヶ月分、貧血の薬は2ヶ月分、飲み終わる頃には随分とよくなった


貧血が治りかけた頃に、ぎっくり腰になった

重い物を持った訳でもないのに、いきなり腰に電気が走った

寝返りをする度に悶絶をする1週間

ボルタレンとコルセットと湿布で凌いだ


腰が治る頃、今度は肘が痛み始めた

整形外科で「この痛みはテニス肘ですね、

痺れは続くならMRIに入って脳の検査をした方がいいかもしれないね」

と診断された


立て続けに体調不良を起こす私に、次男は

「病院代、全部俺が払うから、大きな病院で検査してくれよ」と言った

「大丈夫だよ~」私が答えると、

「心配だからさ」と返ってきた



次男が逝ってしまう少し前、

「最近、体調はどう?」と、私に聞いてきた

「うん、少し調子良くなってきたかな」私が言うと

「よかった~」と次男は言った


あの時、私が「まだ全然だめみたい…」

そう答えていれば、私を心配していた次男は、

死を選ぶ事は無かったんだろうか


「心配だからさ」

耳に次男の声が貼り付いていて、こだまする





イクスピアリが出来たばかりの頃、よく連れて行った

映画を観たり、買物したり、ご飯食べたり…


次男は、雷が鳴ったりするジャングルの様なレストランがお気に入りで、

行く度に「ここがいい」と、何回も食事をした